2014-03-03

ごはん 1

会社を辞めてからは、基本的に作業は自宅。もうずっと家にいる。
でもごはんの時はきまって外に出る。料理はめっぽうだめなのだ。

実家を半ば追い出されるようにして出た自分だけれど、一人暮らしには思い描いていた憧れがいくつかあって、料理もその一つだった。何かが食べたいというよりは、食の自由を得るスキルと、それに付随する生活習慣への憧れ。早速「ひとりごはん」系の料理本をいくつか買って、選り好んだ道具を揃えた。でも当時はそのちょっと先まで行った所で手が止まってしまい、次第に冷蔵庫は飲料のみの倉庫と化し、台所に立つことはまずなくなった。

料理の習慣化は思ったより難しかった。

朝はパンを焼いたりしたけど、基本的に平日は食事を職場周りで済ませていたので、食材の買い置きはできない。チャンスは週末、ふとお腹がすいた昼か夜。「う、お腹すいた…。」と思った後、お米を研ぎ、本を読んで食材を揃え料理を完成させて「いただきます」の挨拶まで早くても1時間はかかる(それもおかず一品とかで)。空腹で胸のタイマーが鳴り出したような状態から、先の見えない旅に出る覚悟がまず要る。

そこを乗り越えたとして、次にお弁当の誘惑が待つ。スーパーへの買い出しで嫌でも目にする出来合いのお弁当・お惣菜。これが超おいしそう。今これを買えば、確実に、幸せに、すばやく、リーズナブルにおなかを満たせる!これは本当にすごいことで、たとえ誘惑を断ち切り前に進んだとしても、これらは全く保証されないからだ。

まず一人分で一食分の材料を揃えようとしても意外と高い。久しぶりの料理なので、家にはめんつゆ/白だし系もなければ、ごま油・オリーブオイル系もないし、小麦粉・片栗粉の類もない。クックパッドで「軽く加えときます♪」みたいなデフォルト扱いされる品々も重なると地味に辛い。下手に重なるとすぐ2000円に届く。弁当どころか、この金で食べれる輝く外食メニューのフラッシュバックにレジで抗い続けることになる。

そして台所。ここからが本当の戦い。滞り無くレシピ通りに事が進み、美味しい料理に出会えると思ったら期待し過ぎも甚だしい。量や時間のさじ加減、ほんの一摘み間違えただけで食材達は不穏な顔色を示す。対処する技術もなく不安を押し殺しながらも進めると、仕舞には目も合わせられないような形相でプレートに並ぶ。ああ、本当に不味い。

テンションの高さで腕をカバーした時には大抵量とバランスを見誤る。空腹の絶頂、やっとまともに完成したと思ったが、食卓にドンブリ山盛りのポテトサラダしかないと気付いた時の絶望感たるや。量は足りるが、冷たいジャガイモだけで腹が満たされていくのは途中泣きたくなった。でも食材はそれっきりだったし、例えあったとしても並行して作る腕がない。何もかも、道のりは果てしなく思えた。

散々時間とお金をかけて、勇気を持って進んだ結果が、このマズメシ。貴重な週末の一食。これを糧にモチベーションを保てという方が無理というものだ。野菜を切って小分けに冷凍、みたいなこともしばらく試したけれど、美味しく解凍できないし、それを出して食べたいという気にはやっぱりならず。

そんなこんなで当時、家で食べることはほとんどなかった。


(たぶんつづく)